糖尿病の治療薬について
飲み薬
■スルホニル尿素(SU)薬
インスリン分泌を促し血糖値を下げる飲み薬です。インスリンを作る力(インスリン分泌能)が比較的保たれている方に有効です。血糖値に関わらず血糖値を下げ続けるため
低血糖を起こすことがあります。特に高齢者や腎障害のある方で低血糖が遷延することがあるので注意が必要です。速効型インスリン分泌促進薬とは併用できません。
■ビグアナイド
肝臓で糖が産生されるのを抑えるのが主ですが、消化管からの糖吸収の抑制やインスリン感受性(インスリンの効きやすさ)の改善などを介して血糖値を下げる飲み薬です。この薬のみで低血糖を起こす可能性は低いです。ごく稀ではありますが、命に関わる副作用である
乳酸アシドーシスを起こすことがあり、重い肝・腎・心・肺機能障害のある方、大量飲酒者、手術前後、高齢者、重篤な感染症に罹患している方などには推奨されません。またCT検査などで
造影剤を使う場合には使用の2日前から2日後までの内服中止が推奨されます。
■αグリコシダーゼ阻害薬
糖の吸収を遅らせることにより食後の血糖値の上昇を抑える飲み薬です。空腹時血糖よりも食後高血糖が著明な方に有効で、食直前に飲む薬です。この薬のみで低血糖を起こす可能性は低いです。副作用として腹部膨満感、放屁の増加、下痢などがあり、特に飲み始めの時期に強く出ます。徐々に副作用は改善することが多いですが、副作用が続き内服の継続を断念することもあります。この薬を飲んでいる方の低血糖時には多糖類での対処は吸収が遅れますので、単糖類の
ブドウ糖での対処が必要です。
■チアゾリジン
インスリン抵抗性(インスリンの効きにくさ)を改善し血糖値を下げる飲み薬です。この薬のみで低血糖を起こす可能性は低いです。水分貯留を起こすことがあり、
心不全の患者さんには推奨されません。
■速効型インスリン分泌促進薬
短時間のインスリン分泌を促し血糖値を下げる飲み薬です。SU薬に比べ吸収と血中からの消失が早く作用時間が短いため、食後の血糖値上昇を抑えることが期待され、食直前に内服します。SU薬同様に低血糖を起こすことがあります。SU薬とは併用できません。
■DPP-4阻害薬
血糖依存的にインスリン分泌を促進しグルカゴン(血糖値を上げるホルモン)分泌を抑制するため、高血糖時には血糖値を下げ、正常血糖時には血糖値を下げず、低血糖の危険をあまり伴わず血糖値をコントロールする飲み薬です。
週1回内服するだけで済む製剤もあります。
■SGLT-2阻害薬
尿中への糖の排泄を促進し血糖値を下げる飲み薬です。糖の尿中への排泄に伴って尿量が増えるので十分な
水分補給が必要です。副作用として尿路感染症や性器感染症に注意が必要です。
注射薬
■GLP-1作動薬
血糖依存的にインスリン分泌を促進しグルカゴン(血糖値を上げるホルモン)分泌を抑制するため、高血糖時には血糖値を下げ、正常血糖時には血糖値を下げず、低血糖の危険をあまり伴わず血糖値をコントロールする注射薬です。食欲抑制作用があり、
体重の低下作用があります。注射薬なので自己血糖測定も行えます(飲み薬のみの治療では自己血糖測定は保険適応外です)。
1日1-2回注射や週1回注射の製剤があります。
■インスリン注射
下記にインスリン注射を種類毎に説明しています。個々の病状・生活スタイル・生活リズム・好みに合わせて、下記インスリン注射を使い分けます。
〈超速攻型インスリン〉ノボラピッドR、ヒューマログR、アピドラRなど
食事によって血糖値が上昇するのを抑えるためのインスリン(インスリン追加分泌と言います)を補う注射です。注射して10分程度で効果を発揮するため食事開始の直前に注射します。
〈中間型インスリン〉ノボリンNR、ヒューマリンNRなど
食事に関係なく1日を通して体内で分泌され続けるべきインスリン(インスリン基礎分泌と言います)を補う注射です。最近は下記の持効型インスリンが用いられることがほとんどです。
〈持効型インスリン〉レベミルR、トレシーバR、ランタスRなど
中間型インスリンよりも長く24時間以上効果を発揮するインスリン注射です。超速攻型インスリンの様に急激に効果を発揮するものではないため、食事時間に関係なく1日1回だいたいの時間で注射してもらえば大丈夫です。本人が自分で注射できない場合などに介護者が食事時間に関係なく注射できます。
〈混合型インスリン〉ライゾデクR、ノボラピッド30ミックスR、ノボラピッド50ミックスR、ノボラピッド70ミックスR、ヒューマログミックス25R、ヒューマログミックス50Rなど
超速攻型インスリンと持効型もしくは中間型インスリンを混合したインスリン注射です。インスリン追加分泌が含まれるため、食事開始の直前に打たなければなりませんが、1種類の注射薬でインスリン追加分泌とインスリン基礎分泌が投与可能です。一般的に1日に1-3回注射します。
■持続皮下インスリン注入(CSII、通称インスリンポンプ)
インスリンの複数回注射で血糖コントロールが上手くいかない場合に持続皮下インスリン注入(CSII: Continuous Subctaneous Insulin Infusion、通称インスリンポンプ)を用いることがあります。腹部の皮下に軟らかいチューブを留置し、管でつながった30-60cm先のポンプから持続的にインスリンが注入されインスリン基礎分泌を補います。プログラミングにより基礎分泌の注入量を時間によって事細かく変える事が可能です。食前にはポンプのある本体を操作してまとまった量のインスリン追加分泌を補いますので、食事の度に針を刺す必要がありません。低血糖のリスクが減る、針を刺すのが2-4日に1回で済むなど多くの利点があり、アメリカなど海外では普及していますが日本では普及率が格段に低いのが現状です。インスリンポンプを装着したアスリートも国内外で見受けられます。