■糖尿病とは
インスリンという血糖値を下げるホルモンの作用が絶対的もしくは相対的に不足すると、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が高くなります。この高血糖の状態が続いているのが糖尿病です。健康診断などで、
空腹時血糖値 126 mg/dLもしくは
HbA1c値 6.5%を超える場合には糖尿病が疑われますので受診をお勧めします。
・原因
1型糖尿病、
2型糖尿病、
妊娠糖尿病、
ステロイド糖尿病など糖尿病はいくつかの種類に分類され、原因は様々です。圧倒的に多いのは生活習慣の乱れが発症につながりやすい2型糖尿病です。ただ、いずれの糖尿病も血糖値と血糖値を下げるホルモンであるインスリンとのバランスが壊れしまっていることが原因で発症します(高血糖になります)。
・症状
多くの方は無症状ですが高血糖が顕著だと症状が出ます。血糖値がよほど高いと人の体は尿から糖を排泄しようとし、一緒に水分も排泄されますので、まず
多尿となります。この多尿は日中・夜間を問わないため、寝ている間にも何度もトイレへ行きたくなります(夜間尿)。本来必要な水分が尿として出て行ってしまいますので、脱水となり喉が渇き、水分を欲するようになります。これらの症状を
口渇・
多飲・多尿と言って高血糖の時に特徴的な症状です。このときに水分をカロリーのある飲み物(ジュース・スポーツ飲料・有糖コーヒーなど)で摂取するとさらに血糖値・症状は悪化します。水分補給が不足すると脱水が悪化し、急激に
体重が減ります。この状態では入院や少なくとも外来でインスリン治療を開始しなければなりません。糖尿病の方にとって、症状があるという事はよほど血糖値が高いというサインになりますので、口渇・多飲・多尿や急激な体重減少があった場合にはすぐに受診してください。放置してさらに悪化させると
意識を失い(高血糖昏睡)救急車で病院に運ばれることになり、場合によっては命に関わります。
・合併症
では糖尿病になると何がいけないのでしょうか?糖尿病はよほどの高血糖で無ければ症状の無い病気です。つまり気づきにくく、気づいていても放置できる病気で、通院・治療を中断してもすぐに体調に変化や症状が現れないことが多々あります。ですが、健康診断などで早期に糖尿病をみつけ、しっかりと治療をしようとするのには当然理由があります。糖尿病を放置すると3大合併症と呼ばれる糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症や、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞・脳出血など生命に関わる危機を招き後遺症の残るような病気を引き起こします。また感染症にかかりやすくなる、傷がなおりにくくなるなど体への影響は多岐にわたります。糖尿病に特徴的な3大合併症はそれぞれ重大な病態につながります。糖尿病性神経障害では、足の感覚がなくなり小さな傷をきっかけに足が壊死して(くさって)しまい切断することにつながります。糖尿病性網膜症は失明につながり、糖尿病性腎症は進行すると透析治療が必要になります。これらの重大な合併症を防ぐ、少しでも発症の確率を下げる、少しでも発症を遅らせるために定期的な継続した通院・治療が必要な病気なのです。
* 1型糖尿病での治療中断は直接生命の危機につながる場合がありますので、決して治療を中断しないでください。妊娠糖尿病の治療中断も場合によっては出産前後の合併症、お子さんの形態異常(奇形)、お子さんの将来の糖尿病発症などにつながる場合があります。
・治療
糖尿病はそのときの生活習慣、他疾患の病状、体調・ストレスなどの変化に伴い悪化・改善することがよくあります。他疾患の治療、体調・ストレスの改善ももちろんですが、血糖値改善の基本的な治療は①食事療法②
運動療法③
薬物療法となります。つまり①適正なカロリー摂取、②適度な運動、③病状に適した薬物の選択です。これら①②③による複合的な治療により血糖値の改善を目指します。
■1型糖尿病
1型糖尿病とは膵臓にあるインスリンを作る細胞(β細胞)が破壊されてしまう病気です。小児を中心に若い人に発症する事が多いですが幅広い年齢で発症し、発症頻度は10万人に1-2人ほどと言われています。血糖値を下げるホルモンであるインスリンが枯渇もしくは不足してしまうので、体外から注射でインスリンを補わなければなりません。
インスリン注射の中断は直接生命の危険につながります。一般的には急性に発症し、上記にあるような高血糖症状(口渇・多飲・多尿・体重減少など)を契機に病院・診療所を受診し診断されます。中には劇症1型糖尿病と言われる数日という短期間に急激に発症するタイプや、長年2型糖尿病だと思われていたのが実は1型糖尿病だったというような緩徐進行型1型糖尿病というタイプなどもあります。緩徐進行型の場合にはインスリン注射が不要な場合や、1日1回の注射で済む場合もありますが、多くの1型糖尿病では1日に複数回の
インスリン注射が必要になります。場合によっては
持続皮下インスリン注入(CSII、通称インスリンポンプ)を用いる場合もあります。
■2型糖尿病
1型糖尿病がインスリンの絶対的な不足であるのに対して、2型糖尿病はインスリンの相対的な不足であり、多くは長期的な過食・運動不足などの生活習慣の乱れと生まれ持った体質が原因で発症します。糖尿病の9割以上がこの2型糖尿病です。血のつながった方に糖尿病の方がいる方は2型糖尿病を発症しやすくなります。若い人を中心にソフトドリンクの多飲で発症することや、ストレス・他疾患(癌や感染症)・薬剤などに伴って発症・悪化することもあります。インスリンの相対的な不足であるため、インスリンの分泌が回復する、インスリンの効きやすさ(インスリン感受性)が回復するなどすれば、適正な血糖値に回復する事が可能です。ただ長期間高血糖状態が続くと回復不能な絶対的なインスリンの不足・枯渇につながり、この場合には
インスリン注射が必須となります。適正な食事、適度な運動、病状・病態にあった薬剤選択が治療となりますが、
薬剤が不要なことや一時的なインスリン注射の使用だけで済むことなども多々あり、食事療法、
運動療法が治療の主体となります。なかでも血糖値の上昇につながる食事のカロリーを適正に抑えることが最も重要な治療です。
■耐糖能異常
2型糖尿病の診断には至らないものの、正常とも言えない軽度の高血糖状態のことで、境界型糖尿病、糖尿病の手前、糖尿病予備軍などとも言います。将来糖尿病に移行する確率が高いため、予防が重要です。2型糖尿病と同様に食事・
運動療法により糖尿病を発症させないこと、また定期的な血液検査が必要です。場合によって年に1回の健診や病院・診療所での数ヶ月おきの検査をお勧めします。
■妊娠糖尿病
妊娠中は血糖値を上げるホルモンが産生され、さらに妊娠中期以降にはインスリンが効きにくくなることなどから血糖値が上昇しやすくなっています。そのため妊娠に伴って発症する妊娠糖尿病となることがあります。経口75gブドウ糖負荷試験(甘いジュースを飲んで頂きその前後に採血を行う検査で50gの検査と75gの検査とあります)で、空腹時血糖値≧92 mg/dL、1時間後血糖値≧180 mg/dL、2時間後血糖値≧153 mg/dLのいずれか1点を満たすと診断されます。現在、妊娠女性の10%前後に発症すると考えられています。コントロールされていない妊娠糖尿病は早産や死産なども含め、妊娠や出産前後の合併症につながる場合があります。将来のお子さんが糖尿病を発症しやすくなるとも言われています。これらを少しでも防ぐためには通院し、しっかりとした血糖管理が必要となります。まずは食事管理をしながら自己血糖測定(自宅でご自身で血糖を測って頂きます)を行い、目標の血糖値に達していない場合には薬物治療を行います。妊娠中における内服の糖尿病治療薬は安全性が確保されていませんので、
インスリン注射による治療を行います。出産に伴い血糖値は改善することがほとんどですが、出産3ヶ月後頃を目処に糖尿病の再評価を行います。また妊娠糖尿病となった方は将来糖尿病を発症しやすいので、毎年の健診など定期的な血液検査や尿検査を受けられることをお勧めします。
■ステロイド糖尿病
リウマチ等の膠原病・自己免疫性疾患、気管支ぜんそく、抗がん剤治療など、さまざまな病気の治療でステロイドと呼ばれる薬が使われることがよくあります。ステロイドはもともと体内に分泌されているホルモンですが、血糖値を上げる作用があります。治療で使われるステロイドは体内で分泌されているよりも多い量が投与されますので、糖尿病が発症することや、もともとの糖尿病が悪化することにつながります。他疾患の治療と糖尿病の発症・悪化を天秤にかけることになりますが、他疾患の治療を優先させてステロイドを継続することが圧倒的に多いです。ステロイドの投与時間、投与量、糖尿病の病状によって
飲み薬や
インスリン注射の調整が必要になることがあります。何かの病気の治療でステロイドを使用する場合には事前に糖尿病の有無を確認する事や糖尿病を診てもらっている主治医にすぐに相談しましょう。