■甲状腺疾患とは
前頚部(首の前面)にある蝶のような形をした組織です。皮膚の下の浅いところにあるため腫れている場合や腫瘍がある場合には外から触れることがあります。そのため容易に体表からの超音波(エコー)検査で病状判断や診断ができることがあります。甲状腺は代謝を司る甲状腺ホルモンを作っており、甲状腺ホルモンが過剰な状態を
甲状腺機能亢進症、不足した状態を
甲状腺機能低下症と言い、それぞれ特徴的な症状が出ます。また甲状腺はよく
腫瘍の認められる組織であり多くは良性ですが、稀に悪性もあります。悪性が疑われる場合や腫瘍のサイズが大きい場合には針を刺して腫瘍内の細胞を検査に出します。
■バセドウ病
バセドウ病とは、甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌される女性に多い病気です。甲状腺ホルモンが血液中に大量にある状態を
甲状線機能亢進症と言い、動悸、頻脈、息切れ、耐暑能低下(暑がり)、多汗、食欲亢進、体重減少、下痢、イライラ、手指振戦(手のふるえ)、甲状腺腫大、眼球突出、複視(ものが2つに見える)など様々な症状を引き起こします。男性では血液中のカリウム値が下がり、手足に力が入らなくなること(周期性四肢麻痺)もあります。ほとんどの方が薬物治療により改善し、そのうちの半分の方が数年で薬が要らなくなり、残り半分の方は継続した薬物治療が必要になります。まれに放射線ヨード治療や手術を行うこともあります。
■橋本病
慢性甲状腺炎とも言い、言葉の通り甲状腺に慢性の炎症が起こっている病気です。人によっては甲状腺ホルモンが不足し、甲状腺ホルモンの補償(飲み薬)が必要になります。非常に多くの方にみられる病気で、人間ドック受診者における研究では約2割の方が橋本病と診断されたと報告されています。ですが橋本病の方のうち甲状腺ホルモンが低下してしまう
甲状腺機能低下症に至る方はこのうちのさらに2割と考えられていますので、橋本病だからといってすぐに症状が出るわけでも治療が必要なわけでもありません。症状としては、甲状腺の腫大、徐脈(脈が遅い)、耐寒能低下(さむがり)、食欲低下、体重増加、便秘、うつ状態、記憶力低下、不妊、脱毛などが挙げられます。
■甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが体内に過剰な状態のことを言います。動悸、頻脈、息切れ、耐暑能低下(暑がり)、多汗、食欲亢進、体重減少、下痢、イライラ、手指振戦(手のふるえ)などの症状が出ます。原因の9割ほどは甲状腺が勝手に甲状腺ホルモンを作ってしまう
バセドウ病で、その他に前頚部の痛みを伴う亜急性甲状腺炎や痛みを伴わない無痛性甲状腺炎が原因としてあげられます。後者2つの病気は何らかの原因で甲状腺が破壊され一時的に甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。
■甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが体内に不足している状態のことを言います。徐脈(脈が遅い)、耐寒能低下(さむがり)、食欲低下、体重増加、便秘、うつ状態、記憶力低下、不妊、脱毛などの症状が出ます。原因の9割以上が橋本病(慢性甲状腺炎)です。他には
バセドウ病や
甲状腺腫瘍に対して甲状腺摘出術や放射線治療を行ったのちに甲状腺機能低下症に至ることがあります。いずれも飲み薬による甲状腺ホルモンの補充で甲状腺ホルモン値は改善し、症状も改善・消失します。
■甲状腺腫瘍
甲状腺腫瘍には他の臓器と同様に良性腫瘍と悪性腫瘍があります。悪性腫瘍には乳頭癌(にゅうとうがん)、濾胞癌(ろほうがん)、未分化癌(みぶんかがん)、髄様癌(ずいようがん)、悪性リンパ腫などがありますが、多くは乳頭癌です。乳頭癌は進行が遅く命に関わることの少ない比較的予後の良い癌です。甲状腺腫瘍を指摘されたら、まずは甲状腺超音波検査(エコー)で腫瘍のサイズ・性状などを評価し、良性か悪性か、悪性ならどの種類の癌かなどの診断は甲状腺腫瘍に注射針を刺して腫瘍の細胞を採取すること(穿刺細胞診)で行います。